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数値目標は二日の最終合意に向けて、いくつかの組み合わせの案が浮かんでは消えた。
三月八日から始まった閣僚会議に登場した米国のゴァ副大統領のイニシアチブにより、米国は数値目標受け入れを表明。
当初の基準年比ゼロの主張は、日を追うごとに広がり、ついに七%減となった。
二・五%減を主張した日本も、米国と協調する形で六%減を受け入れた。
当初域内一括で一五%減を主張していたEUは「日米と差がある目標は認められない」と修正に動き、最終的に半分近い八%減とした。
この数値目標を、日本政府はどのような判断を背景に受け入れたのか。
私の力不足で、取材や公開情報で解明しつくせなかった。
分かる範囲のことを示したい(注三。
担当大使の田辺氏の回想によると、一○日未明の非公式会合で日米欧三極が一括して数値目標を受け入れる方向が固まり、六,七,八の枠組みもできた。
米国が高めの数値目標を設定したのは、途上国の参加を促す狙いがあった。
途上国側は削減目標の義務化に反対したが、自主的参加の形で中国などの大国が関与する可能性が模索された。
しかし、水面下での折衝で反対に直面し、自主的参加も断念された。
米国は経済上のライバルである日本がともに高い数値目標を受け入れ、同時に途上国へ働きかけることも望んだ。
通産省側の代表団メンバーらは当初から「五%以上の削減はとても無理」と主張した。
関係筋によると、一○日に断続的に行われた日米協議の中で、米国の高官が国内で必ず七%削減案を認めさせることを確約した。
エストラーダ京都会議全体委員会共同議長(アルゼンチン外交官)と日本側の主要メンバーを前にした約束だったという。
これで日米協調の方向が確認され、それが影響してEUも八%減を受け入れた。
また、二日までに行われた交渉で、森林がCO2を吸収した分を削減分に認められる可能性が強まった。
これを受けて、日本代表団内で外務省と環境庁、さらに代表団に加わった政治家らが六%減の数値目標の受け入れを通産省側の出席者に説得。
そのとき、「国内で基準年比二・五%減という従来の目標は変えず、残りは森林吸収で行う。
森林吸収は今後の外交交渉で認められるように主張し、必要な国内措置も行う」との約束があったという。
「二つの確約を契機に、日本の受け入れの流れができた」(関係筋)とされる。
これらの確約が本当にあったかは取材で確認しきれていない。
だが、別の政府筋は、「その指摘は状況の一断面にすぎない。
それだけで決まったわけではない」と語る。
「なぜ受け入れたか一言では説明できない。
日米欧三極のバランス、京都メカニズムなどを総合的に考慮して、六という数字が固まった」という。
大木元長官によると、二日未明に代表団内での意見の取りまとめを終え、橋本龍太郎首相に日本は六%の削減案を受け入れることを報告。
大木氏は会議前に橋本首相に「状況によっては背伸びします」と語り、橋本首相は了承していたという。
そして、六%削減も首相自らの決断で最終的に受け入れた。
一連の証言をみると、「米国との協調」と「森林吸収源」が日本の受け入れで重要な判断要素となったようだ。
会議では、EUがまとまって交渉に臨み、それに対抗するため日米が中心となって国が集まり「アンブレラグループ」と呼ばれるまとまりができた。
そのため、日米は京都会議で協調して動く場面が多かった。
仮に米国側が確約したなら、その後の離脱を考えると日本は外交信義上裏切られた形になる。
だが、米国への批判だけですまない問題だ。
途上国が削減をどのような形でも受け入れないことは予想できた。
そして、上院の「バード・ヘーゲル決議」がある以上、米国が七%削減案を目標にできないことも事前に分かったはずだ。
そうした状況の下で、日本は米国と協調して京都会議を妥結させようと選択したことは、見通しが甘かったように思える。
「森林吸収源」とは、植物の光合成を考慮して、森林がCO2を吸い込んだ量を削減分にカウントすることだ。
日本は京都会議前には「科学的に森林がどの程度CO2を吸収するのか不明確で、京都議定書の取り決めに入れるべきではない」と主張した。
ところが、会議中に数値目標の削減幅が広がる中で、これを考慮に入れねば日本の削減義務が達成できない状況になった。
このために会議終盤では森林吸収を拡充するように各国に働きかける矛盾に満ちた行動をした。
日本はその後の外交交渉で三・九%減少分の森林吸収を獲得した。
だが、森林吸収にかかるコストは「無料」ではない。
CO2を吸収したと京都議定書上で認められるには、森林の整備が必要だ。
二○○二年に農林省の外局、林野庁が発表した整備コストの試算では、吸収分確保のため、二○○○年から一○年間で約一兆一○○○億円分の森林整備費用の上積みが日本全体で必要という。
京都会議当時に農水省と調整し、この巨額の負担を考慮した上で森林吸収を考えた形跡はない。
なぜ、六%減の判断が行われたのか。
理由はいまひとつ不明確だ。
議長国日本の代表団には、会議をまとめなければならないとのプレッシャーが加わっていた。
そのため、「妥結させる」との政治的な判断が異論を押し切ったようだ。
ただ、反対姿勢を示した通産省側も、日本全体の視点に立って主張したわけではない。
縦割り行政の中では当然のことだが、欧米諸国との差ただ、日本以外の国では、数字について合理的な分析を行う努力が払われた。
二○○一年にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は第三次評価報告書を発表した。
IPCCは国連環境計画(UNEP)と世界気象機関(WMO)の提唱で設けられた。
世界の有識者を集めて温暖化についての分析を行うことを目的としている。
一九九○年に第一次報告、九五年に第二次報告を行い、地球温暖化問題の議論の方向性を形成してきた。
第三次報告について日本では第一作業部会報告「科学的根拠」が注目された。
「最近五○年間に観測された地球温暖化のほとんどは人間の活動に起因するものである」(注三)など、温室効果ガスによって温暖化が進行していることが再確認されたためだ。
しかし、発表直後の経産省では別の部分が注目され、反省がしきりに語られた。
同省内で注目を集めたのは第三作業部会報告「緩和対策」だ。
ここでは温室効果ガスの削減行動によって、EU、米国、そして日本の経済に与える影響が、詳細に分析・記述さ自らの担当の産業とエネルギーの範囲にのみ関心を持っていた。
当時の状況では他に選択はなかったのかもしれない。
だが、私には、達成可能性や負担への十分な考慮がないまま、日本は勢いで数値目標を受け入れてしまったように思える。
れていた。
例えば、九○年時点で、日本のガス削減コストは、一炭素トン(一炭素トンU一二分の四四トン)を減らす場合に、各国のシンクタンクの九つの推計の平均値で三三○・五ドル必要だ。
一方、EUは二二ドル、米国は一七八ドルという(注四)。
また、経産省が同報告に加えて、各国研究機関の予測数値を二○○三年に集めたところ、一トン当たりの削減コスト推計値の平均は、日本が約四○○ドル、EUが約三○○ドル、米国が約二○○ドルとなった。
いずれも、日本はEUの約一・三倍、米国の約二倍の削減コストが必要との結果が出た。
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